総合診療専門医を取得した段階では、一定レベルの診療はできるようになっているものの、それだけで「総合診療医を育てる」ことができるわけではない。自ら総合診療専門医を養成する研修プログラムを立ち上げ、運営し、専門医として送り出すことができるようになるためには、さらに1段階上の「教えられる」レベルの専門的診療能力に加えて、教育技法、メンタリング、組織マネジメントなどのさまざまなスキルが必要となる。このコースは、総合診療専門医の研修プログラム責任者に必要な能力の修得を目的とした1年間のコースである。本コースでは、特に「理論を伴った実践」を重視する。経験は重要ではあるが、バックボーンとなる理論を伴っていなければ、環境に応じて柔軟に対応しつつ、一定の質を担保した体系的なプログラムの構築・運営はできないからである。具体的には、本コースは理論を学ぶOff the job trainingと、それを実践で生かすOn the job training、そしてその経験を確実に定着させる振り返り(reflection)を有機的に組み合わせた形で構成される。本コースを通して、どの地域であっても、それぞれの実情に合わせて、独立して総合診療専門医を養成できるプログラム責任者を養成することを目指す。
【Goal(s)】
【Objectives】
本プログラムは、①レクチャー等による理論的な学習(Off the job training:Off-JT)、②受講者自らがそれを臨床や指導の現場で実践する演習・実習(On the job training:OJT)、③経験を確実に定着させる振り返り(reflection:RF)の3段階で構成されている。詳細については7を参照のこと。
下記の教科書を組み合わせて用いる。それ以外の資料や参考文献については、適宜配付する。
修了条件
・すべての科目において、3分の2以上の講義・演習に出席していること。
・指導教員および専攻医による観察記録で一定以上の評価を得ていること。
上記により総合的な評価を行う。
科目名 | 時間数 | 内容 | |
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医学教育学 概論 |
時間:指導医養成講習会 2日間 レクチャー2時間×3回 講演会:7月、1月 レクチャー:未定 |
目的 | 医学教育学(特に教育実践に関する部分)の基礎的な理論を学ぶ。 |
内容 | カリキュラム開発、レクチャー・カンファレンスの進め方、ワークショップの進め方、ベッドサイド教育の進め方、フィードバック技法、多職種連携教育、メンタリング、プロフェッショナリズム、シミュレーション教育、e-learning、reflection、学習評価、ポートフォリオ評価 等 | ||
進め方 | 茨城県指導医養成講習会に受講者として参加する。講習会でカバーできない範囲は、講義方式で学ぶ。(2時間×3回) | ||
総合診療専門医制度 概論 |
時間:2時間 時期:4月 |
目的 | 社会的に大きな期待を集めている総合診療専門医の位置づけおよび新しい専門医制度の内容について詳細を学ぶ。 |
内容 | 総合診療医の位置づけ、総合診療医に期待される役割、地域包括ケアシステム、総合診療専門医の整備指針、プログラム責任者の役割と任務、プログラム修了要件、病院群施設基準 等 | ||
進め方 | レクチャー方式で学ぶ。(2時間×1回) | ||
モーニング レクチャー演習 |
時間:1.5時間 (マイクロ45分、実施30分、振り返り15分)×20回 時期:月~木8:30-9:00 |
目的 | 総合診療医に求められる基礎的な臨床能力について、短時間で効果的なレクチャー・演習が実施できる。 |
内容 | 筑波大学総合診療科で行っているモーニングレクチャーを題材にとして行う。取り扱うテーマは以下の通り。 身体診察(1)(2)/頭痛/胸痛/腹痛/腰痛/めまい/しびれ/風邪/動悸/失神/うつ(1)(2)/不安/somatization/生活習慣病へのアプローチ(1)(2)/論文抄読 | ||
進め方 |
それぞれの内容について、以下の4ステップを行う。 ①事前準備 ②指導教員によるマイクロティーチング ③レクチャーの実施 ④指導教員との振り返り |
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学生指導 演習 |
時間:1.5時間 (マイクロ45分、実施30分、振り返り15分)×10回 時期:月~木午後 |
目的 | 総合診療医に必要な臨床能力について、短時間で効果的なレクチャー・演習が実施できる。 |
内容 | 臨床実習を行っている学生を対象としたクルズスやワークショップを題材として行う。取り扱うテーマは以下の通り。 クルズス・演習(各2回) 鑑別診断の考え方/臨床決断/緩和ケア/身体診察/心のケア | ||
進め方 |
それぞれの内容について、以下の4ステップを行う。 ①事前準備 ②指導教員によるマイクロティーチング ③クルズス・レビュー等の実施 ④指導教員との振り返り |
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外来指導 演習 | 時間:3時間×20回 時期:月~金午前 | 目的 | 外来のセッティングにおいて、短時間で、医療の質を保ちつつ教育効果の高いフィードバックができる。 |
内容 | 大学病院および筑波総合診療グループ関連施設の総合診療科外来において、実際に学生・研修医・専攻医の指導を行う。(20回) | ||
進め方 | 指導医とともに外来研修に陪席して、専攻医等を指導する。指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
教育回診 演習 | 時間:3時間×20回 時期:月~金午前 | 目的 | 病棟回診のセッティングにおいて、短時間で、医療の質を保ちつつ教育効果の高いフィードバックができる。 |
内容 | 筑波総合診療グループ関連施設の病棟において、実際に学生・研修医・専攻医の指導を行う。(10回) | ||
進め方 | 指導医とともに病棟を回り、専攻医等を指導する。指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
ケースレビュー 演習 |
時間:1時間×20回 時期:不定期 | 目的 | 教育的なカンファレンスを主催・運営し、学習者の学びを深めることができる。 |
内容 | レジデントレビュー(10回) 大学病院および筑波総合診療グループ関連施設で開催されるケースレビューにおいて、実際にカンファレンスの運営・指導を行う。 学生ケースレビュー(10回) 大学において行われる、ビデオによる医療面接レビュー/学生症例レビューおよびプレゼンテーション指導を担当する。 |
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進め方 | 指導医陪席のもとでカンファレンスを実施し、指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
振り返り演習 | 時間:1時間×10回 時期:毎週金17:30-18:30 | 目的 | 経験を学びに変えてキャリア成長につなげる「振り返り」について学ぶ。 |
内容 | 筑波大学総合診療科で毎週行われているレジデントの「振り返り」のファシリテートを担当する。(10回) | ||
進め方 | 指導医陪席のもとで振り返りを実施し、指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
ナイトセッション 演習 |
時間:3時間 (マイクロ75分、実施90分、振り返り15分)×10回 時期:不定期18:30-20:00 |
目的 | 総合診療医を特徴づける能力について、効果的なレクチャー・演習が実施できる。 |
内容 | 患者中心の医療、BPSモデル、行動変容、悪い知らせの伝え方、EBM、家族志向ケア (今後追加予定)リハビリ、老年医学、ウィメンズヘルス、情報技術 など | ||
進め方 |
それぞれの内容について、以下の4ステップを行う。 ①事前準備 ②指導教員によるマイクロティーチング ③レクチャーの実施 ④指導教員との振り返り |
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レジデントデイ 演習 |
時間:3時間×12回 時期:不定期(休日) | 目的 | 専攻医の振り返りとキャリア支援、専門医取得のための研修進捗管理などについて学ぶ。 |
内容 | 専攻医同士のピアレビューの促進、振り返り、メンタリング、キャリア支援、ポートフォリオ指導、学習後のフォロー、研修手帳の管理 など | ||
進め方 | 指導医陪席のもとで実施し、指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
ポートフォリオ 指導演習 |
時間:1時間×10回 時期:不定期 | 目的 | ポートフォリオの意義を理解し、作成指導のノウハウを学ぶ。 |
内容 | 専攻医が作成したポートフォリオを実際に指導する。(10回) | ||
進め方 | 専攻医が作成したポートフォリオをマンツーマンで添削指導する。指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
健康教室 指導演習 |
時間:5時間 (準備2時間×2回、実施1時間)×3回 時期:不定期 |
目的 | 住民を対象としたヘルスプロモーションの実践およびその指導に関するノウハウを学ぶ。 |
内容 | 専攻医が実施する健康教室について、その準備および実施に立ち会って指導する。(3回) | ||
進め方 | 専攻医が担当する健康教室について準備段階から継続的に関わり、当日も同席して指導する。指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
FD演習 | 時間:指導医養成講習会 2日間 時期:講習会:7月、1月 | 目的 | FDの企画・運営のノウハウを学ぶ。 |
内容 | 茨城県指導医養成講習会にタスクフォースとして参加する。 | ||
進め方 | 各セッションにおいて、実際にファシリテートを担当する。指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
ノンテクニカル スキル演習 |
時間:1日×10回 時期:不定期(休日) | 目的 | プログラム責任者に必要な組織マネジメントのスキルを学ぶ。 |
内容 | チームビルディング、ファシリテーション、リーダーシップ、コンフリクトマネジメント、TEAMS(BP、BI、BR)、MBTI、タイムマネジメント など | ||
進め方 | それぞれの研修会に参加する。 | ||
学術活動指導演習 | 時間:6時間×3回 時期:不定期 | 目的 | 専攻医の学会発表や論文執筆(総説を含む)を指導するスキルを学ぶ。 |
内容 | 専攻医が行う学会発表や論文執筆(総説を含む)を実際に指導する。(3回) | ||
進め方 | プライマリ・ケア連合学会等において、専攻医が実際に行う発表・執筆を指導するする。指導の内容および方法について、あとで指導医からフィードバックを受ける。 | ||
QI(Quality Improvement) 演習 |
時間:10時間 時期:不定期 | 目的 | 日常の活動の中で課題を見つけ、それを改善するプロセスおよびその指導について学ぶ。 |
内容 | 課題の同定、文献レビュー、PDSAサイクル等 | ||
進め方 | 筑波総合診療グループにおける教育・診療活動の中で、1テーマ以上課題を発見してその改善を図り、一連のプロセスをレポートにまとめて発表する。 |