11月23日(土)、けやき棟エントランスホールにおいて、チーム医療シンポジウム2013「日本の医療を支えるため、チームは進化します。~筑波大学附属病院のチーム医療人材養成~」を開催しました。
筑波大学ならびに附属病院の教職員、患者さんとご家族、地域の保健医療関係者、学校関係者など、128名の方々にご参加いただきました。
日時:平成25年11月23日(土)13:30~18:00
場所:筑波大学附属病院 けやき棟エントランスホール
シンポジウムの目的
文部科学省の補助事業として実施されてきた、「患者中心の医療を実践する人材養成の体系化」が補助事業最終年度を迎えたことから、 今回のシンポジウムでは事業の成果をご報告することで、日ごろは外から見えにくいチーム医療人材の養成についてより深く知っていただくことを目指しました。
シンポジウムの内容
シンポジウムは、総合臨床教育センターの瀬尾恵美子副部長の司会のもと、五十嵐徹也病院長の挨拶で開会しました。
開会挨拶では、これから先、地域全体で患者さんをケアしていくためには、医師だけ、看護師だけではなく、多職種のスタッフと患者さん自身もチームの一員として、適切な治療に取り組むことが大切になることが述べられました。
第1部:チーム医療を実践する人材とその養成とは?
まず、総合臨床教育センターの前野哲博部長から「なぜチーム医療が求められているのか?」と題して報告がありました。
日本の医療現場はすでに限界が近く、医療を巡る社会も変化し、 既存の役割分担を超えた新しいチーム医療を導入する必要があるとされました。
チーム医療とは互いに連携・補完し合い患者の状況に的確に対応した医療を提供することであり、 単なる分業になってはチームの真価を発揮できず、患者さんを中心としたチームで医療をするのが理想的との考えが示されました。
そのため、当院の「患者中心の医療を実践する人材養成の体系化」により、 高い専門能力を持つ病院職員が職種の壁を越えて教育に当たり、人材養成を標準化・体系化することにより、互いに教え合う文化を醸成し、 優れた人材が確実に育つ環境の構築を図ったことが報告されました。
続いて、チーム医療教育推進室の稲葉コーディネーターから「チーム医療人材の養成~筑波大学附属病院の取組み~」と題し、 現在運営されている教育プログラムの全体構造や、多職種チームの活動事例、実際のチーム医療教育の運営等について報告がありました。
職種や組織の壁を越え、多職種が参加し運営された研修の例や、 既存の各部単位・職種単位の研修から病院全教職員が対象の研修に再編成された例などが紹介され、 これからもチーム医療を担える人材教育に取り組んでいきたいとの言葉で報告が終えられました。
第2部:患者さんとご家族を支えるために~多職種チームの挑戦~
地域医療連携・患者相談支援センター患者相談支援室の板橋辰哉社会福祉士からは、「地域医療連携推進室による高度医療を必要とする在宅患者等支援チーム」の活動について報告がありました。
退院支援調整プログラムについて、退院・回復についての患者さんと医療者とでは認識にずれがあるという背景が説明された後、情報共有の不十分さから急な退院後の生活に不安を抱える患者さんやご家族も少なくなく、この支援のため、適切な時期に適切に介入できるシステム作りが目指されたことが紹介されました。
退院支援カンファレンスや勉強会、プログラム検討会議、研修会などを実施したことにより、退院に向けた連携が図りやすくなったことやプログラム導入病床数の増加など、取組みの成果についても示されました。
続いて、リハビリテーション部の立元寿幸理学療法士から「術前から始める周術期リハビリテーションチーム 急性期リハビリテーション~心臓大血管リハビリテーション~」について報告がありました。
まず、身体的運動能力獲得のための運動療法と再発予防への教育と啓発という心臓リハビリテーションの概念について紹介されました。
また、茨城県における心疾患等循環器系疾患調査の結果と、循環器医療の問題点が示されました。
実際のリハビリの様子や実施状況についても報告され、心臓リハビリテーションが効果のある治療であり、今後は大学病院の立場から心臓リハビリテーションの地域連携を含め、県全体の予防・治療を推進していきたいとの言葉で締めくくられました。
第3部:レジデント研修プログラムが拓く新たな役割~医学物理士レジデント~
医学医療系(医学物理学グループ)の磯辺智範准教授からは、「安全・安心な放射線治療の担い手としての役割」と題して報告がありました。
医学物理とは医療の中で画像診断と放射線治療の2つをサポートする分野であり、物理(装置、技術)と医学の通訳的 な人材であるのが医学物理士ですが、日本では、認定試験の難しさに加え試験合格後の臨床経験が1~3年必要で、 認定を受けるのが困難であることから、米国に比べて認定者数が格段に少ないことがまず示されました。
本院のレジデント研修プログラムでは、試験合格後に業務経験を持たないために認定を受けられない方のサポートを目的に、 大学病院と大学院が連携して教育を実施することが紹介されました。
続いて、その詳しい内容について医学医療系の神澤聡研究員から「本邦初のレジデント研修」と題し報告がありました。
年間や1日の研修スケジュールや外部研修についての紹介の後、 臨床現場で研修を積むことで、新たに見えてきた課題の解決を通して、多くを学んだことが紹介されました。
医学物理士レジデントプログラムについての報告の後、本院の薬剤師レジデントプログラムについて、 森山侑太薬剤師レジデントよりポスター発表がありました。本院のプログラムは、病棟への配属が早いことから、
第4部:全ての教職員がチームの強力なメンバーです。~海外や異業種の成功事例に学ぶ~
看護部がん看護専門看護師・風間郁子看護師と地域医療連携・患者相談支援センター・外山美紀副看護師長からは、 「米国のチーム医療を支える組織及びスタッフの意識改革」と題し報告がありました。
まず、当院の患者相談支援室とがん看護専門看護師の役割が紹介された後、 チーム医療における看護師の果たす役割とリーダーシップを学んだ米国研修について報告されました。
米国・聖アンソニー病院の緩和ケアチームでは、多様な専門職の役割が明確で、 協力を得るべき職種がわかりやすく、チームの形成から問題解決まで導きやすい仕組みになっていること、 また、目標の共有や頑張りを評価する文化や、交流の場を設けることで、看護の質が向上したことなどが、現地での写真とともに紹介されました。
続いて、医学医療系(医学教育企画評価室)の鈴木英雄准教授から、 「世界で注目されるKAIZENの手法を医療界へ」と題し報告がありました。
まず、監督者のための職場教育の手法であるTWI(Training Within Industry)の歴史と概要について紹介がありました。 本事業では外部講師を招聘し複数回TWI講習会が開催され、その手法を多職種で体験することで、 参加者の高い満足度が得られ、医療現場での有用性があることが報告されました。さらにTWIを医療現場に応用し、
質疑応答と講評
来場者との質疑応答では、事業推進の力について、各チームを担当された現場の皆さんの力強い活動が、 本事業を推進する力となっていることが明かされました。 また、事業の生産性についての質問には、五十嵐病院長から、取組みを長い目で見る必要があり、 最終的に患者さんの満足やスタッフの成長の方が、かかるコストを上回れば、その取組みの生産性は高いとの考えが示されました。 前野事業推進責任者からは、補助事業が終わってからも病院独自の事業として続いていくプロジェクトとなることが説明されました。
本シンポジウムを締めくくる講評を、外部評価委員の皆さまからいただきました。 鈴木委員からは、本シンポジウムの内容は大変興味をひかれるものであったこと、 またこのようなチーム医療の中心となる話を厚労省の会議でもできると良いと感じたことを話された後、 筑波大学の取組みが日本の他の医療現場にも還元されれば、との期待が示されました。 また、阿部委員は、この様に一同に会して話ができること自体、取組みが根付いてきた表れであり、 大変到達度が高く成果があがったプロジェクトであると事業全体を評価された後、この取組みを是非広く発信して、 筑波大学も地域も良くなる取組みにつながると良い、と結ばれました。
最後に、本事業を振り返って、初代事業推進責任者の松村明副病院長は、 関係者の協力でこれだけの実のある取組みとなったことに感銘を受けたと話され、 これからもお互いの専門性と信頼を育て、この取組みをさらに発展させて欲しいという願いが述べられました。 五十嵐病院長からは、現場の人たちの取組みが9割で、それをほんの少し後押しするだけでこれだけの成果が出た。 この取組みの中で、プロフェッショナル・オートノミーが働いていることを確認でき、大変うれしく感じている、と締めくくられました。
白川洋子副病院長の閉会の挨拶は、チーム医療にはそれぞれの自律と尊重の気持ちを備えた人間の集まりが必要であり、 これからが本当のスタートだと思う。皆さんの色々な知恵を出し合って患者さんのための取組みをこれからも進めていきましょう、 との教職員へのエールで閉じられました。
本事業の内容等詳細は、以下のURLの事業ホームページにてご紹介しています。
http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/team_iryo/index.html