twitter

挨拶

精神科多職種連携治療・ケアを担う人材養成プログラムの発足に寄せて

筑波大学副学長・理事・附属病院長
原  晃

この度筑波大学において、平成30年度文部科学省「課題解決型高度医療人材養成プログラム(精神関連領域)」から「精神科多職種連携治療・ケアを担う人材養成プログラム」が採択され、茨城県立医療大学、東京慈恵会医科大学との協働で発足することとなりました。筑波大学においてはこれまで、医療科学類を中心とした多職種連携やがんプロに関連したGPを獲得し、養成プログラムを実施してきた実績があります。本プログラムは、精神科領域では初めての多職種連携人材養成プログラムとなりますが、これまでのノウハウを生かした実効性のあるプログラムとなることは間違いありません。その中心となるのは新井哲明教授であり、確かなアウトカムをお示し戴けるものと思料しますが、何といっても確かな成果を出すためには、本プログラムに参加して戴ける医師、看護師、作業療法士等の様々な職種の方々の積極的な参加を欠くことができません。筑波大学附属病院・筑波大学医学医療系も全面的に支援しますが、様々な職種の方々の、明日の精神医療を見据え、高邁な意思を持ってのご参集をお待ち申し上げております。

精神科多職種連携チーム医療・ケアを担う人材養成を目指して

事業推進責任者
筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学・教授
新井 哲明

我が国では、社会生活のグローバル化、高度情報化、高齢化など、複雑かつ急激な変化を背景に、うつ病、認知症、依存症、統合失調症、発達障害、PTSD等の精神疾患・障害が多様化し、かつ患者数が増加してきています。そして、これらの多様な疾患・障害患者の特性に応じた医療が求められていますが、その仕組みは十分とは言えません。さらに、病院における医療だけでなく、地域移行・地域定着支援事業やアウトリーチ事業等も試行されていますが、医療と福祉の連携が不十分です。患者の入院の長期化や退院後の孤立を防ぐためには、入院時から多職種がチームとして関わり、退院後も多職種・多機関が有機的に連携し、患者のニーズに合わせた包括的支援を提供する地域包括ケアが必要ですが、そのシステムの整備は十分ではありません。このように多様な精神科多職種連携治療・ケアについて、その成否は多分にメディカルスタッフの経験に負うところが大きく、この現状を打破するためにはチームを構成する全ての職種が体系的な教育を受けることが必要です。

精神科多職種連携治療・ケアを担う人材養成プログラム(Psychiatric Staff Education Program for Transdisciplinary Approach: PsySEPTA)は、H30年度文部科学省「課題解決型高度医療人材養成プログラム(精神関連領域)」に、筑波大学、茨城県立医療大学、東京慈恵会医科大学の3大学の連携のもとに申請し、採択されました。本プログラムでは、精神疾患・障害の治療・ケアに際し、職域を超えたトランスディシプリナリーなチームで対応できるメディカルスタッフを養成します。対象は、医師・歯科医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・公認心理師・精神保健福祉士・作業療法士・理学療法士等です。一口に多職種連携と言っても、総合病院でのリエゾン、精神科病院入院後の退院促進(リハビリテーション)、退院後の地域包括ケア(コミュニティケア)などの目的によって、また都心部か地方かなどの地域によってもそのあり様は異なります。これらの多様性に対応するため、多分野の精神医療専門家を擁する筑波大学の学内連携、茨城県立医療大学および東京慈恵会医科大学との大学間連携、地域連携という3つのリソースを活用します。教育プログラムの運用では、10年以上の実績がある筑波大学の全国がんプロeラーニングクラウドと連携し、隅々の講義対象者にまでアプローチできるシステムを構築するとともに、独自に作製するドラマ形式の映像教材を利用し、より実践的な教育を行います。さらに、多職種による事例検討会やロールプレイングを通して、お互いが別職種の役割を理解し、チーム医療を機能させる能力を高めます。全ての多職種協働へのオールラウンドな対応を習得する履修証明コースと、疾患特異的に多職種協働を学習するインテンシブコースを用意し、多様な学習を可能にしています。

これらにより、本プログラムを履修した方には次のような能力が身につきます。すなわち、①精神科疾患・障害についての専門的な知識を有する、②精神科チーム医療・ケアにおける各職種の役割を理解し、協働できる、③依存症、認知症、うつ病、PTSDなど各疾患に適したチーム医療・ケアを理解し、実践できる、④地域の特性に則したチーム医療・ケアを実践できる、⑤総合病院のリエゾンチーム、精神科病院の多職種連携チーム、地域包括ケアチーム等で精神科治療・ケアを実践できる。

冒頭に記しましたように、精神科治療・ケアに多職種連携が重要であることに疑問の余地はありませんが、各職種間にはまだまだ隔壁のようなものが存在し、うまく協働することは容易ではないのが現状です。本プログラム名のPsySEPTAには、psych septa (隔壁を分析し解決する)という意味があります。本プログラムによる人材育成の普及により、職種間の壁のない新たな精神科多職種連携チーム医療・ケアが実践されるようになることを確信しています。

PsySEPTAでチーム医療を学ぶ意義

茨城県立医療大学 医科学センター
茨城県立医療大学付属病院 精神科
山川 百合子

近年、精神疾患・障害の治療やケアの場は病院から地域へと広がっています。また高齢化やグローバル化などで、病態も多様化しています。その複雑な背景の中で最も適したチーム医療のありかたが、プログラム名にもあるトランスディシプリナリーアプローチなのです。これは専門職がお互いの役割を熟知して、必要に応じて職種を超えて対応することも必要となります。これには専門職としてのアイデンティティクライシスや葛藤もあるでしょう。しかしトランスディシプリナリーアプローチを支えるのは、理論と実践の両面からの視点による教育により自信をつけていくことなのです。しかも専門職ごとの教育ではなく、関係するどの専門職も受けることが可能な統一されたプログラムが必要です。これを踏まえ、PsySEPTAでは講義だけでなく映像やロールプレイなど教材を使用した、これまでにないわかりやすい教育プログラムとなっています。今後は履修証明コースやインテンシブコースを十分活用して、自分の職種の可能性を大きく広げていってほしいと思います。

PsySEPTAの連携大学である茨城県立医療大学は教育機関としてリハビリテーション専門の付属病院を持っています。リハビリテーションは元来身体だけでなく、精神・心理的、社会的にも最大の回復をめざし、多職種の積極的な連携により支えられています。このリハビリテーションの治療構造は精神医療そのものの理念とも共通しています。したがってPsySEPTAプログラムにより、トランスディシプリナリーアプローチを理解し実践することで、これまで1人の専門職ではなしえなかったことが可能となり、ひいては多くの当事者が人生の困難を乗り越えていけることにつながることを願っています。

ご挨拶

東京慈恵会医科大学 精神医学講座・教授
繁田雅弘

この度は、『平成30年度大学改革推進等補助金(大学改革推進事業).課題解決型高度医療人材養成プログラム.精神科多職種連携治療・ケアを担う人材養成』プログラムに連携施設として参加する機会を得ましたことを、東京慈恵会医科大学では学長をはじめ関係者はたいへんに光栄に感じるとともに、嬉しく思っております。
精神医療は他の医療領域比べても、より多くの医療・福祉職が関わる領域と考えます。しかし、大学附属病院に勤務する精神科医は、作業療法士や精神保健福祉士などの職種に日常業務の中で当然のように働きながら、その職能や強みを必ずしも十分に理解しているとは言えないのです。それは病院外の他の職種との情報共有や連携をするときに痛切に感じます。医学教育の中でも、各職種の職能について十分な教育が行えているとはいえません。こうした事情は、医師だけでなく、看護師、保健師、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士などにも通じるものと思います。このプログラムにより、精神障害者の治療やリハビリテーションや支援に関わる職種が、互いの能力と限界を理解し、互いの強みを最大限に引き出し、弱点を互いにカバーできる体制を構築して、患者さんとご家族・関係者が最大の恩恵を得ることができるよう、尽力いたします。
新井哲明筑波大学教授のリーダーシップのもと、充実した履修証明コースとインテンシブコースを整備できるよう力を尽くしたいと思います。関係者のみなさまのご理解とご支援をお願いする次第でございます。