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ホーム > 研修等のご案内> チーム医療教育プログラム「せん妄の勉強会」で『≪せん妄に気付く≫診断と対応のポイント』を実施しました

研修等のご案内

 附属病院の医師(レジデント)・看護師・薬剤師等、多職種の医療スタッフを対象とした 「せん妄の勉強会」を実施し、10名(医師9名、事務職員1名)の病院スタッフが参加しました。



日時:平成24年12月4日(火)19:00 ~ 20:00
場所:筑波大学附属病院 第1会議室
講師:精神神経科 佐藤 晋爾 先生
対象:医師(レジデント)・看護師・薬剤師、多職種の医療スタッフ

勉強会の目的

 多職種の医療スタッフがともに、せん妄の診断と対応のポイントについて学び、 せん妄に適切に対処できることを目的としました。


勉強会の内容

 病院内では頻繁に発生しているのに、 そのことへの認知度が低いのが「せん妄」かも知れません。 「病院でせん妄はどの程度起きていると思う?」という佐藤先生の問いかけから、 勉強会が始められました。解答:ICUの患者さんの約80%はせん妄と言われているそうです。 これには、参加者一同驚いた様子でした。

 それほど頻発しているのに、「せん妄」はなぜ医療者に意識されていないのでしょうか?  「ハイパーアクティブな状態の他に、 それとは反対の意識状態(以下「寝ぼけたような」と記載します)のものがあり、 この寝ぼけたような状態のものは見逃されているかも知れない」と佐藤先生から説明があり、 この勉強会の重要性が参加者に認識されました。


意識障害は「意識がない」ではない!

 「せん妄」とは、清明度は比較的保たれているが意識野が狭く、 起きているけれどもはっきり覚醒していない、注意力が狭まった状態を指すそうです。 せん妄は、軽度の意識障害でわかりづらい、 よって、いかに気づくかがポイントになることが示されました。

 せん妄は、清明度が変動する特徴があり、 日に3度は患者さんの様子をみるようにしたいとされました。 医師が行けない場合は、看護師が様子をみていくなどのチームワークが、 「せん妄」に気付くためには必要です。1日を通した状態がわからないと、 認知症などの他の疾患のせいだと考え、せん妄を見過ごしてしまうことがあります。

注意が持続しない

 せん妄と認知症の患者さんはどう違うのでしょうか? どちらもテストに間違えることはありますが、その間違え方が異なるそうです。 「100を逆さまに数えてもらう」のが良い方法の一つとして示されました。 せん妄の患者さんは、例えば10の位が変わるところやナースコールの音など、 何かをきっかけにして間違えが起こることが特徴です。つまり、注意が持続しないのです。


夜間のせん妄は夜間に始まらない!

 日中寝ぼけたような状態だった患者さんが、 夕方しっかり起きたりしたら要注意! 認知症では「Sundown Syndrome」が知られていますが、 せん妄でも昼過ぎから夕方の3-5時ころにすでに意識の変容が始まっていることが多いので、 これを見逃さずに早めの対応をとることが大切であることが説明されました。 夜になってからでは薬が効きにくいこともあるそうです。

原因は一つではない

 せん妄の原因は様々で、中枢神経系に問題があるなどの直接の要因のほかに、 薬物の中毒症状、アルコール依存症の退薬症状、 入院や手術、ICUの夜間照明などでもせん妄になるそうです。


心因性と即断しない!

 精神科の基本は、器質的要因をまず重視することです。 器質的要因があれば、命にかかわることもあるし、逆に治療できることもあります。

 器質的要因が見つからなくても、ヒステリーと断定してはいけないというお話では、 ヒステリーの鑑別診断について、実演を交えた説明がありました。

また、平常時の患者さんの意識レベルが確認できていなければ、 例え脳波などで正常下限の数値(8Hz)が出ても、 「意識障害でははない」とは断定できないことが示されました。


治療は難しい

 せん妄の20%は、2週間程度で回復しますが、 回復までの期間は1週間未満から2か月を超えるものまで幅広くあるそうです。 回復率は、約70%とされる報告が多いものの、 せん妄自体が生命予後不良因子となるため、 せん妄になった患者さんはそうでない患者さんに比べると、 死亡リスクが2倍になるそうです。

 治療では次の方法が有効ですが、治療が難しいのも事実だそうです。

環境調節:家に似た環境をつくる、ベッドは窓側で日光を浴びられるようにする、 患者さんが見やすい時計やカレンダーを置く、家族を呼ぶ、など

点滴:BUN/Cre > 20の「脱水」のお年寄りには特に有効


内服薬は適量の設定が難しい

 内服薬は、まずは「ほどほど」になるまで毎日こまめに用量を変え、 「ほどほど」になったら、数日から1週間は様子をみる。 激しい興奮状態なら用量を増やすが、落ち着いたらゆっくり減らし、 いつかは薬をやめて欲しいと述べられました。

 抗不安薬・睡眠薬として使われるBZD(ベンゾジアゼピン)系薬剤は、 それ自体がせん妄の原因になりえるので、せん妄ならまず中止する。 ただし3か月以上使用している場合、 離脱症状を引き起こすので漸減するとの注意がありました。

 また、患者さんがアルコール依存症の場合は、 離脱せん妄のこともあります。手が震えているなどの症状がある場合、 例外的にアルコールと交叉耐性のある催眠鎮静剤:diazepamを用い、 ビタミンB群や葉酸の補充、補液も併行して行う、脱水にも注意するように、との注意がありました。


多くの選択肢を持とう

 患者さんの状態に沿った薬を使うために、 選択肢は多くあったほうが良いとされ、 様々な薬剤の特徴や禁忌が紹介されました(参考文献(「せん妄の治療指針」(2005、星和書店))。


インフォームド・コンセント

 認知症の患者さんの場合などは、悪くなる可能性もあるので、 必ずきちんとしたインフォームド・コンセントをする必要があることが述べられました。


抗精神病薬の副作用などにも気を付けよう

 高熱、意識障害、頻脈などの悪性症候群が起きたら、 すぐに投薬を中止し、輸液をするなどの対応が必要であることも説明されました。

 アカシジア(静座不能症)は、抗うつ薬や一部の胃腸薬などでも起きる副作用で、 体や足がソワソワしたりイライラして、じっとしていられなくなります。 この状態を言語化できない患者さんもいるので、やたらに体位を変えたりする場合、 「足がムズムズしませんか?」などと聞くとよいそうです。

 また、RLS(レストレス(レッグ)症候群)の場合は、抗精神病薬と真逆の薬を出す必要があります。

「せん妄」は、病院スタッフにすらあまり認知されないまま、
多くの患者さんがかかっている意識障害です。
正しい診断や対応が、患者さんの予後不良を防ぎます(^_^)

チームの力でまず「せん妄」を発見しよう!







 

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