Q&A FREQUENTLY ASKED QUESTIONS FOR MEDICAL PROFESSIONALS
経皮的左心耳閉鎖術とは?
心原性血栓塞栓症
非弁膜症性心房細動の患者さんにおいては、心房が不規則かつ高頻度に収縮することにより、心房内の血流速度が低下することが知られています。その結果、心房内で血液がうっ滞・血の塊(血栓)が形成されやすくなります。心房内に形成された血栓が心臓から流れ出ると、重要な臓器(脳・心臓・腹部臓器)を還流する動脈を閉塞する原因(血栓塞栓症)となります。特に、血栓塞栓症により脳梗塞が生じた場合には、頭蓋内の大きな血管が閉塞される結果となり、後遺障害をのこすような重篤な脳梗塞や死に至ることがあります。
心房細動にともなう血栓の大部分は、左心耳とよばれる袋状の構造物内で形成されることが知られています。非弁膜症性心房細動の患者さんにおいて、下記の血栓塞栓症のリスクが1つでもある方においては、心房細動にともなう血栓塞栓症を予防する目的で、抗血栓療法が考慮されます。
- 心不全/左室収縮能の低下
- 高血圧
- 高齢[>75歳]
- 糖尿病
- 一過性脳虚血発作や脳梗塞の既往)
内服による抗血栓療法としては、ワルファリンや新規抗凝固薬(プラザキサ・エリキュース・イグザレルト・リクシアナ)が挙げられます。
一方、抗血栓療法が行われる場合には、内服にともない血液が固まりにくくなることから、脳出血や消化管出血といった出血性イベントにも注意が必要となります。過去の報告からは、下記のリスクを多く有する患者さんにおいて、抗血栓療法中の出血性イベントが多いことが明らかとなっています。そのため、出血リスクを複数有する場合には、安全に長期的な抗血栓療法を継続することがしばしば困難となります。
- コントロールされていない高血圧(>160mmHg)
- 肝機能/腎機能障害
- 脳卒中の既往
- 出血の既往/貧血
- ワルファリン内服にともなうPT-INRが不安定
- 高齢(>65歳)
- 抗血小板剤/鎮痛剤の内服、アルコール多飲
[HAS-BLEDスコア 1.~7.各1点 肝機能/腎機能障害はそれぞれ1点 薬剤/アルコールもそれぞれ1点]
経皮的左心耳閉鎖術
カテーテルを用いて左心耳入口部にデバイスを留置することにより、左心耳内腔への血液の流入を抑制し、左心耳内血栓が浮遊することを予防する抗凝固療法に代わる治療法です。ヨーロッパでは2005年 米国では2015年、国内においては2019年9月より保険診療が開始されています。
国内で承認された唯一の左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN、Boston Scientific社)は、5つのサイズ展開があり(21, 24, 27, 30, 33mm)、デバイスを留置するためには、左心耳入口部最大径が17㎜以上31㎜以下、かつ左心耳入口部から先端までの長さが入口部径より長い必要性があります。そのため経皮的左心耳閉鎖術を行う場合は、術前に経食道心エコーや造影CTにより左心耳形態の確認を行います。左心耳形態がデバイス留置に適していると判断される場合は、全身麻酔下および経食道心エコーを用いて、カテーテルによりデバイス留置を行います(下記図)。

経皮的左心耳閉鎖デバイス留置が可能である場合は、術後45日、6ヶ月を目安に経食道心エコーでデバイス表面の血栓がないこと、デバイス周囲にリークがないことを確認し、問題が無い場合は徐々に抗凝固療法を変更し、最終的には抗血小板剤であるアスピリン製剤を永続的に内服へと切り替えます。米国で実施された前向き無作為試験においては、段階的に抗血小板単剤の内服となる術後6ヶ月以降は、ワルファリン内服群と比較して出血性合併症が低下することが示されました。
また、血栓にともなう虚血性脳卒中の回避率は、内服による抗血栓療法と同等でした。結果として、5年間の経過観察では、出血性イベント、後遺障害をきたす重篤な虚血性脳梗塞、死亡の複合イベントを有意に低下することが示されました。
※本治療は、術後少なくとも45日間は抗凝固療法(ワルファリン)内服が必要とされており、抗凝固療法の内服自体が困難な症例に対する手技の有効性・安全性は確認されておりません。
日本循環器学会の左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針においては、次の項目にあてはまる患者さんが経皮的左心耳閉鎖術の対象とされています。
- 非弁膜症性心房細動
(発作性・持続性・永続性心房細動の病型は問わない) - 血栓塞栓症の発症リスクが高く、長期的な抗血栓療法が必要
- 出血リスクが高い(下記いずれか1つ以上に該当する)
- HAS-BLEDスコアが3点以上
- 転倒・転落に伴う治療歴が複数回ある
- びまん性脳アミロイド血管症の既往
- 抗血小板薬2剤以上を長期(1年以上)服用
- BARC type3に該当する大出血の既往
- 短期的な(45日程度)抗凝固療法であれば可能
上記項目を満たす患者さんにおいては、経皮的左心耳閉鎖術を行うことにより、長期的には血栓塞栓症を予防しながら、出血性イベントを回避できる可能性があります。左心耳の形態などによりすべての患者さんに治療を提供できるわけではありませんが、心房細動の患者さんで抗血栓療法に伴う出血で困られている場合や出血イベントのリスクが高く抗血栓療法が行えないなどの場合には、当院にご紹介いただければ、ハートチームで経皮的左心耳閉鎖術の可能性を協議させていただきます。
当院では、カテーテルアブレーション・経皮的左心耳閉鎖術といった高度先進医療を提供できる体制を整えており、それぞれの患者さんに最適な治療を提供することが可能です。
不整脈(医療従事者向け)
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