<活動背景>
ラオスでは、経済発展と自動車交通の増大にともない、交通事故の死傷者数は増加傾向にあります。交通事故で致命傷を負った患者は、病院へと運ばれることもなく、路上で亡くなっていくことも多いのが現実であり、2010年頃までは、ラオスでは路上死が「日常」でした。
公的な救急搬送サービスがない状況下で、毎日繰り返される路上死に心を痛めた若者が立ち上がり、ボランティアによる救急搬送が開始されました。市民ボランティアで構成される民間の救急隊の活動は、ここ数年で首都ビエンチャンを中心に盛んになり、2021年現在、5つのレスキュー団体が政府に認可され、ビエンチャン市の救急搬送を担っています。彼らは、活動資金を寄付で賄いながら、不十分な資機材を駆使し、24時間体制で無償の救急搬送サービスを提供していました。しかし、救急隊の教育システムや搬送先医療機関との連携強化など、活動をより効率化、高度化させるための課題が累積していました。
また交通事故を減らすには、交通事故がどのような場所や状況において、どのようなけがを引き起こしているかを知ることが重要です。しかしながら、ラオスの交通事故に関して情報(発生場所・時間・状況など)が記録されておらず、けが人の記録は紙のまま保存され、事故データは分析されていない状況でした。
<活動内容>
そこで、これらを解決すべく、救急隊の活動内容を記録し、そのデータを救急車から病院に事前伝送する救急医療サービス支援システム(ESS)の開発・導入を目指しました。このデータを元に、教育・道路整備・交通違反の取り締まりに反映され、交通事故の削減に活用されることが期待されました。2024年5月には、ESSに蓄積されたデータを解析した内容をもとに、ビエンチャン高校において交通安全セミナーを開催しました。
ESS導入後に利用状況を調査した結果、大半のレスキューにおいて、出動回数に比して登録隊員数が多く、隊員の入れ替わりの頻度も高い事から、ESSの利用手順や目的に関する隊内の申し送り・共有に課題を抱えている事や、病院前活動中の端末利用について地元住民から理解が得られず、利用を控えていた状況が確認できました。JICAと事業実施団体は、保健省とミタパープ病院に対して、ESSの継続的な活用により得られるデータを分析することで、交通事故死者数を減らすための対策につなげられることを説明し、レスキューがESSを継続して利用できるように研修を行うよう提言しました。
(救急車搭載のスマートフォンの操作)
※ESSはスマートフォンで操作できるWebアプリケーションのため、日常的にスマートフォンを使用している救急隊員は簡単に操作ができます。
<システムの説明>
救急車の出動から現場到着、救命措置、病院到着まで、活動の流れに沿って操作することで、それぞれの時刻が記録されます。事故発生地点や出動時間帯、搬送先病院別/隊別搬送件数、交通事故形態、出動~病院到着までの所要時間等、蓄積された活動記録のデータはESSの分析機能により即座に確認可能です。また、けが人の受傷部位や事故の現場写真の記録も可能です。これらを分析することにより、交通事故を減らす対策に活用することが可能です。
(レスキューが使用するESSスマートフォンアプリの画面)
(データ解析画面例:期間、事故種別等で事故発生地点が確認可能)
傷病者を搬送中の救急車内から傷病者のデータを受入れ病院に伝送することができます。これにより病院は、ディスプレイモニターでこれから搬送されて来る傷病者の情報(人数や症状)と救急車の現在地を確認できます。傷病者情報には重症度が示され、重症度の高い順に赤→黄→緑とラベルが付されます。病院がそれらに応じた受入れ態勢を整えることで、救命率の向上を図ります。
(左:病院内に設置されたディスプレイ、右:ディスプレイ画面)
指令管制センター(CCC)では、ビエンチャン市の5つのレスキュー団体(1623、1624、1625、1628、1630)に配備されたスマートフォンのGPS機能を活用し、救急車の位置情報を把握することができます。これにより、CCCの指令員が、救急車の位置情報をふまえ事故現場に最も近い車両に出動指示を出すことが可能です。
また、CCCでは3中央病院(ミタパープ病院、セタティラート病院、マホソット病院)がESSに入力した救急搬送の受け入れ可能状況(受入可、受入不可など)を確認することができます。
(CCCに表示される画面)
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