ラオスは、諸外国の支援を受けながら様々な保健分野の課題に取り組んでおり、国連持続可能な開発目標(SDGs)の指標において改善がみられています。しかし、下記の表が示す通り、日本や東南アジアの近隣諸国と比較するとその差は明らかで、保健医療サービスの更なる高度化が求められています。
指標 | ラオス | カンボジア | ベトナム | 日本 | データ年 |
平均寿命(歳) | 68 | 70 | 75 | 84 | 2018 |
5歳未満死亡率(出生千対) | 47.3 | 28.0 | 20.7 | 2.5 | 2018 |
新生児死亡率(出生千対) | 23 | 14 | 11 | 1 | 2018 |
交通事故による死亡率(人口10万対) | 16.6 | 17.8 | 26.4 | 4.1 | 2016 |
【出典】平均寿命:The World Bank Data, 5歳未満死亡率・新生児死亡率:UNICEF Data, 死亡事故による死亡率:WHO Global Status Report on Road Safety 2018
ラオスでは、医療を受ける必要があっても、様々な障害があり、医療機関の受診が困難なケースが見られます。十分な医療資源が整った病院に行くための交通手段がない、あっても何時間もかかるといった交通アクセスの障害、経済的な障害、そして家族に許してもらえない、受診の必要性を知らないといった社会慣習的な障害もあります。現在、ラオスの保健医療分野において国の最重要課題はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の導入であり、それにより全ての人々が負担可能額で医療を受けられる社会を実現することが求められています。
本事業では次の①~③のグループを対象に教育研修を行いました。
①政府に認可された5つのレスキュー(1623, 1624, 1625, 1628, 1630)の隊員
②主に首都ビエンチャンの3つの国立中央病院(ミタパープ病院、セタティラート病院、マホソット病院)の救急医・救急看護師
③本事業で設置支援を行った1195(日本の119番に相当)を受電する指令管制センターの指導医(救急隊の出動から病院到着までのプロセスを監督する)・指令員(救急通報を受信し、救急隊に出動指令を下す)
各研修の詳細
①レスキューの育成
ラオスにおいて活動する救急隊のほとんどは専門資格を持たない一般市民です。救命救助についての標準的な教育も団体内では実施されていないため、一人ひとりの救急隊員が有する能力の差は大きく、どの救急隊が出動するかで、事故現場あるいは病院への搬送中に実施される病院前救護サービスの内容や質が大きく異なります。本事業では、継続的に質の高い救急隊を育てていくための教材をミタパープ病院と開発し、教育の標準化を図ることで、救急隊のサービスのばらつきを最小化し、サービス向上を目指しました。
活動実績
番号 | 時期 | 期間 | 対象人数 | 活動内容 |
1 | 2022/8 | 5日間 | 116人 | スキルトレーニング |
2 | 2022/12 | 7日間 | 21人 | スキルトレーニング
シミュレーション 救急車同乗研修 |
3 | 2023/8 | 4日間 | 22人 | シナリオ・トレーニング
分娩補助研修 シミュレーション・トレーニング タスク・トレーニング |
4 | 2024/2 | 調整中 | 調整中 | ラリー実施支援
救急車同乗研修 |
(第1回)
専門家が5つのレスキューチームステーションそれぞれで1日間の研修を行いました。
研修内容は基本スキルのトレーニングでした。
少し誤った知識やスキルを持っている参加者もいましたが、研修を通じて正しい知識とスキルを身につけました。
(第2回)
研修期間の前半はミタパープ病院に集まり研修を行い、後半は各チームのステーションで研修を行いました。
研修参加者は各チームで指導者の役割を担う21人でした。
前半に行った研修では、スキルトレーニング、アルゴリズムトレーニングを行いました。
スキルトレーニングでは観察と処置についてをトレーニングを行い、観察では初期評価、ESS入力、全身観察、処置では気道確保と止血のトレーニングを行いました。
アルゴリズムトレーニングでは、初期評価、ESSの入力、全身観察を続けて行うトレーニングを行いました。
ESSに関しては、研修後には研修参加者全員が正しくESSへ情報を入力することができるようになりました。
後半に行った研修では、シミュレーショントレーニング、救急車同乗研修を行いました。
研修参加者が指導者となり、各チームのレスキューメンバーに指導を行いました。
研修で教わったことを他の人に教えることによって、研修参加者は観察や処置に対する理解が深まりました。
救急車の同乗研修では、専門家がレスキューとともに実際の事故現場へ行き、研修で学んだことを実際の事故現場でも同じことができるようにサポートしました。
事故現場には通訳が居ないため、ラオス語で書かれたカードを事前に作り、専門家はカードを使ってレスキューとコミニュケーションをとりながら指導を行いました。
実際の事故現場ではESSの入力も行い、レスキューステーションではパソコンでESSに入力された情報を確認しました。
(第3回)
研修では、シナリオ・トレーニング、分娩補助研修、シミュレーション・トレーニング、タスク・トレーニングを行いました。
(第4回)
調整中
②救急医・救急看護師の育成
医師・看護師については、重症な傷病者を治療できるスキルを持った者は少なく、救急医学や救急看護といった学問そのものも浸透していません。ラオスでは2020年に初めて救急医が誕生しましたが、その数も到底十分とは言えません。そこで、筑波大学の協定校でもあるタイ・コンケン大学と協力しながら、ラオス人医師・看護師の重症な交通外傷者の受け入れや蘇生スキルの向上を目的に、三角協力(日本・ラオス・タイ)を通じた人材育成を展開しました。
<遠隔研修>
番号 | 時期 | 研修テーマ |
1 | 2022/2 | Thailand EMS in COVID-19 |
2 | 2022/5 | Cardiac Arrest & Severe Trauma |
3 | 2022/8 | EMS System |
4 | 2022/11 | Stroke FAST Track |
5 | 2023/2 | 第三国研修生プレゼン |
6 | 2023/5 | 第三国研修生プレゼン |
7 |
2023/8 | 第三国研修生プレゼン
(ラオスにて対面実施) |
コロナ禍で移動が制限された等により、3か月に1度、国立コンケン大学を講師とした遠隔研修が行われました。
研修テーマは各回、ラオス側のニーズをもとに決められました。各講義では意見交換が活発になされました。
研修実施に当たり、Youtubeやグーグルドライブを活用し、当日参加できない方がオンライン上で講義録画をいつでもどこでも視聴可能となるようにしました。
5~7番では第三国研修生(後述)によるケースプレゼンテーションが実施されました。
<第三国研修>
派遣元 |
派遣期間 | 派遣人数 | ||
医師 | 看護師 | 合計 | ||
ミタパープ病院 | 2週間 | 2 | 9 | 11 |
マホソット病院 | 2週間 | 3 | 7 | 10 |
セタティラート病院 | 2週間 | 3 | 7 | 10 |
保健科学大学 | 4週間 | 8 | – | 8 |
合計 | 16 | 23 | 39 |
2023年1月~7月にかけて、コンケン大学へ3中央病院と保健科学大学の救急医・救急看護師計39名を派遣しました。
研修修了生には、2023年2月、5月は遠隔でコンケン大学と3中央病院を繋ぎ、8月にはコンケン大学をラオスに招へいし、対面でケースプレゼンテーションが行われました。
③指令管制センターの指導医・指令員の育成
指導医はミタパープ病院4名、セタティラート病院2名、マホソット病院2名の計8名が選ばれ、研修を行いました。タイのコンケン県立病院を協力機関として、オンライン研修やタイへの第三国研修を行いました。
コンケン県立病院は、かつて2000年代初頭に、タイの交通外傷死減少を目指して展開されたJICA技術協力プロジェクトのカウンターパート機関です。
現在タイの救急医療をリードする立場にあるコンケン県立病院が周辺国を指導し、メコン地域における同分野におけるリーダーシップを促す本研修は、今回の草の根技術協力の一つの特色でもある三角協力の実践とも言えます。
3月~5月の間に、全5日間の講義が行われ、基礎知識の獲得が目指されました。
次に、全5日間のワークショップが行われ、先の研修で習得したCCC運用に関する学びを基礎として、ラオスにおけるCCCの運用や救急車への出動指令の方法、搬送先の病院の選定に関するルール作り等に取り組まれました。
コンケン県立病院へ指導医8名が派遣され、5日間の研修が行われました。
専門家がミタパープ病院と教材を開発し、継続して標準的な教育が行うことが可能となりました。
研修は指令管制センターで対面で行いました。専門家による育成研修のほかにも、指令員として派遣されるレスキュー隊員が日々異なることから、現地スタッフによるシステム利用研修等も行われました。
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