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プロジェクト内容

私たちの取り組み

指令管制センター設置 EMS支援システム導入 救急医療人材育成
ラオスでは、事故現場から病院への救急搬送、病院前救護を担う公的な病院前救急サービスが存在しません。現在、病院前救急サービスを担っている団体の多くが民間ボランティアです。また複数のボランティア団体が活動しており、さらに団体毎に救急通報番号は異なります。一つの事案に対して複数の救急車が同一の場所に駆け付ける事態も発生しています。そこで本事業では、住民からの救急通報を一箇所ですべて受電し、救急車への出動指令を下していく指令管制センターをラオスで初めて設置します。 ラオスでは、傷病者の多くが病院へと事前連絡なしに救急搬送されています。たとえ傷病者が重症であっても事前連絡がないため、病院側は患者の処置に向けた準備が満足に行えず、処置が大幅に遅れるケースが発生しています。この状況を改善する為に、今回は、救急隊が病院到着前に実施した処置や観察内容をタブレット端末に入力し、患者が到着する前に搬送先の病院と情報を共有するシステムを導入します。これにより傷病者の病院到着から蘇生開始までの時間の短縮と対応の効率化が実現し、救命率の向上が期待できます。 ラオスにおいて活動する救急隊のほとんどは専門資格を持たない一般市民です。そこで、継続的に質の高い救急隊を育てていくための教育コースを開発し、教育の標準化を図ることで、救急隊のサービスのばらつきを最小化し、サービス向上を目指します。
また、医師・看護師については、重症な傷病者を治療できるスキルを持った者は少なく、救急医学や救急看護といった学問そのものも浸透していません。そこで今回は、ラオス人医師・看護師の救急医療に関するスキル向上を目指し、人材育成を展開していきます。

プロジェクトの第1中間活動報告書(2021年6月~2022年8月分)を作成しました。ぜひご覧ください。【第1中間活動報告書】

 

取り組みのきっかけ

 

2019年、私たちはラオスにおける3つの課題(後述)を確認しました。抜本的な対策を打たずして交通事故死の減少は不可能と痛感、またラオスで日夜救命にあたる若者の献身的な姿に心打たれました。そこで、ラオス首都ビエンチャンにおける交通外傷死の増加を食い止めるという目標を打ち立て、現地リーダーらと共に先3年間での目標達成を目指したプロジェクト「交通事故から住民の命を守る救命救急活動支援プロジェクト(SAFER)」を立ち上げました。

 

 

課題1.救急隊は地元の若者で構成されるボランティア

ラオスでは、衝突の現場から病院への搬送を担う公的な病院前救急サービスは存在しません。その為、負傷者が病院へと辿り着くには、自力で病院に何とか辿り着くか、地元住民が結成したボランティア救急隊の手に頼る他ありません。特にボランティア救急隊が生まれる前は、負傷者は病院へも辿り着けず、路上の隅っこで息を引き取るケースが後を絶ちませんでした

現在のラオスにおいては、病院前のサービスについては複数のボランティア救急隊が担っており、その多くが大学生や20代の若者であり、隊員の多くは皆、路上死を減らしたい一心で立ち上がった有志です。それぞれの隊は個人や企業からの寄付金を主な活動資金として、負傷者に対しては24時間365日、無償でサービスを提供しています。

2021年現在、8つの隊が活動しており、隊ごとに救急要請番号が異なります。同国最大の団体であるVientiane Rescue(VR)1623は約500名のメンバーで構成され、固定式専用電話6機と指令員を配置した指令センター、救急車16台を保有し、首都ビエンチャンにおける全救急搬送の過半数を担っています。一方、最小の団体は、メンバー数名、救急車、携帯電話とも1台で活動しているに留まります。各隊の中で標準化された教育はなく、隊員一人ひとりが有している知識や技能もまちまちです。人命を扱う活動であるだけに質の高い教育の提供が急がれます

出動指令ラインが複数存在する事による混線、さらには、救急通報内容に適さない救急車の出動や救急車が現場で到着するまで時間の遅延といった状況も認められています。今後はラオス保健省リードのもと、現在8つある救急要請番号を1195(日本で言うところの119番)へと1本化し、ラオス初の公的な指令管制センターを設置、首都ビエンチャン内のすべての救急要請を1か所で受け、市内の全救急車へと出動指令を出す体制の整備が計画されています。

 

課題2.ラオスで外傷専門治療が可能な病院、人材が圧倒的な不足

ラオスにおいて、外傷に関する専門治療が可能な機関は国立ミタパープ病院のみです。

このため重症度を問わず、首都ビエンチャンで発生したほぼ全ての外傷患者は同院へと搬送されます。さらに首都ビエンチャンからだけではなく、他県では対応困難な患者も長い時間(数日を要することもしばしば)をかけて同院へと転院搬送されるケースが多いです。

同院の救急部門の医師や看護師の数は運ばれてくる患者数に比して絶対的に不足しており、救急患者が集中した時には混乱に陥ります。また交通外傷死の原因の第1位は頭部外傷であるが、手術が出来る脳外科医は同院に4名しかいません。他の整形外科や腹部外科などの専門医の数も圧倒的に不足しており、満足な手術が実施できる環境にはありません

これらの問題を解決するために、病院内の保健人材の育成はもちろんのこと、救急隊による重症度に応じた適切な搬送先選定、軽症な患者は国立ミタパープ病院以外の病院への搬送を促す等のリソースの効果的活用、重症な患者については病院到着前に事前に情報を共有し、病院到着と同時に即座に必要な蘇生が開始出来るような体制の整備が求められています。

 

課題3.衝突を未然に防ぐ為の対策の欠落と不完全なデータ

2019年、筑波大学と国立ミタパープ病院は共同で、過去1年間の交通外傷死亡101例の検証を行いました。死亡の過半数は、現代の最先端の救命救急技術をもってしても救命が難しく、衝突そのものを予防する以外に救命の手立て無し、いわば即死の状態であることが分かりました。

この結果は、ラオスの交通外傷死の軽減を目指すには、救命救急活動の高度化のみならず、即死に繋がり得る重大な衝突の数そのものを減らす取り組みが重要である事を示しています。具体的な取り組みとしては、重大な衝突が起きている箇所を同定して、衝突が起きるリスク因子を取り除いたり、またヘルメット装着・飲酒運転・スピード超過等に関する地元住民への教育を行ったりする事が必要と考えられます。

現在ラオスにおいては、交通外傷データが満足に記録されていない事も重なり、衝突の発生場所や時間帯、また衝突が起きてしまった原因について、正確な把握が困難な状況です。その為、今後は正確なデータの蓄積と検証を重ね、検証結果を交通安全や道路交通計画に反映させ、衝突そのものの削減に向けた行動を起こすことが危急の課題となっています。

 

 

ラオス人民民主共和国(ラオス)の紹介

東南アジアの内陸国。北は中国、東はベトナム、南はカンボジア、西はタイ、北西はミャンマーと国境を接しています。地形は山がちで、南北に母なる川・メコン川が流れています。人口約700万人、面積は24万平方キロメートル。日本の本州の広さに、埼玉県の人口ほどの人々が暮らしています。多民族国家ラオスには49民族が共存しており、一番多いのは人口の半分以上を占めるラオ族で上座部仏教を信仰しています。
政府は、2020年に後発開発途上国(LDC)から脱却することを目標としていましたが、現在もLDCに位置付けられています。

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