筑波大学 医学医療系 災害・地域精神医学講座
筑波大学附属病院 茨城県災害・地域精神医学研究センター
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して世界中で様々な対策がとられていますが、未だ十分な治療や検査が実施できる状況にはありません。感染の集団発生は国際的には災害の一つとされ、テロや戦争、自然災害と同様にこころの問題を引き起こすことが知られています。そこで、災害時の精神医療に携わる医療チームとして、一般の方、メディアの方、および支援者の方に、COVID-19に関するこころのケアについて知っていただきたいことをこの文書にまとめました。感染症災害対策の一助になれば幸いです。
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感染の拡大は、人のこころに不安や恐怖、強い怒り、興奮、不眠など様々な気持ちを生じさせることがあります。
さらに今、隔離や自宅待機などの感染対策がとられています。感染拡大防止のためにやむを得ない面はありますが、行動の自由を制限されると、喜怒哀楽の感情が失われたり、強い不安を感じたり、周りの状況が他人事のように感じられたり、自分がいじめられ、疎外されている気持ちが生じる「拘禁反応」と呼ばれる特有の心理状態が生じることがあります。また、親しい関係の一人が感染のため隔離されると、残された人が引き離された不安や抑うつを感じることがあります。
これらの反応は決して特別なものではなく、この状況では誰にも起こり得る自然な心理反応です。特に拘禁反応は、通常は、隔離が解除されれば改善します。ただこうした状態が長く続くと、こころやからだに不調をきたす可能性があります。その場合には、精神医学や心理学の専門家に相談しましょう。
こころとからだの健康を保つため、親しい人と話す、互いにねぎらう、睡眠や食事など規則正しい生活を送る、これまでと同様の生活リズムを維持する、などに努め、この災害に対して健康を維持できる能力(レジリエンス)を最大に発揮できるようにしましょう。特に、外出やイベントが自粛されている現在、運動量が減ることが考えられますので、適度な運動を心がけるようにしましょう。また、自宅でできる活動(読書、映画鑑賞、創作活動、ゲームなど)を楽しみましょう。
・厚生労働省:こころの健康を守るために
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015or4.html
インターネットなどでは、「26-27℃の水でウイルスは死滅する」などの流言・デマを含む様々な情報が行き交っています。曖昧な状況で人々の不安が高い場合に、正確ではない情報が世間に広まりやすくなります。
不確かな情報に左右されないためには、情報源が明らかな正しい情報を得ることが重要です。個人ができる対策として、情報源を確かめ、政府、自治体、研究機関、全国紙などで紹介されている適切な相談窓口を探すことが必要です。様々な情報でかえって不安が増す場合は、テレビ視聴やインターネット閲覧の時間を意識的に減らすなどして、情報を取り入れすぎないよう注意しましょう。
信頼性が高いと考えられるサイトの例:
・ 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
・ NHK NEWS WEB:
https://www3.nhk.or.jp/news/
・WHO:Basic protective measures against the new coronavirus(English)
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/advice-for-public
感染症に関連する災害が人々にもたらす集団心理としての不安は、様々な社会的問題を生じさせます。例えば「ある地域の人は皆感染しているのではないか」「ある人のせいでこの問題が起こっているのではないか」といった不正確な流言・デマから、疑心暗鬼が生じ、偏見を介して、特定の個人や集団に対するいじめ、差別、風評被害をもたらすリスクがあります。
メディアなど情報を発信する立場の皆様におかれましては、COVID-19に関わるセンセーショナルな報道や特定の人々に関する報道は、上記のリスクを理解し、慎重にお願いいたします。個人情報に関しても、十分な配慮をお願いいたします。災害時には情報の質が非常に重要となるため、情報源が明らかであるかどうか、内容が正確であるかどうかについて、吟味してからの発信をお願いいたします。
COVID-19対策に携わる医療者をはじめとする多くの支援者の皆様、日々の活動、本当にお疲れさまです。皆様の働きによって多くの人が救われています。
ご自身や、大切な家族、同僚などへの感染リスクがないかという大きな不安の中で活動されておられる方もいるでしょう。業務にあたっては、こまめに休息をとり、決して無理をしないでください。
仮に行動を制限されるような場合にも、苦労話を共有できる仲間と連絡をとり、互いをねぎらい、孤独に陥らないように留意しましょう。精神的につらさを感じたら、上司や信頼できる人に相談しましょう。
支援者の所属機関の所属長におかれましては、支援活動の内容とリスクに十分気を配っていただくとともに、大事な職員、そしてその家族が生活している地域で誹謗中傷やいじめなどの対象になることがないよう、組織として、支援者を支える対策を検討いただき、職員を守っていただきますようお願いいたします。