当病院遺伝子検査室では、人やウィルスの遺伝子など様々な種類の遺伝子検査を行っています。 そこで、遺伝子検査についてわかりやすく説明をしていきたいと思います。
病気には様々なものがありますが、そのほとんどが遺伝子と関係していることがわかってきました。
遺伝子の異常が起きてしまうのは、両親からの遺伝的要因と私たちの周りにある様々な外的要因が原因となります。外的要因には、たばこやストレス、食品添加物、自然界にいるウィルスや発ガン性物質、放射性物質、薬物などがあります。それらにより引き起こされた遺伝子の異常がいくつか重なることで、様々な病気が起きてしまうのです。ただし、遺伝子の異常が起こっても、必ずしも病気が引き起こされるわけではなく、それぞれの免疫力や遺伝的要因も深く関わってきます。
今回は、白血病と遺伝子の関係について簡単に紹介します。白血病とは、血液のガンです。血液は、赤血球と白血球、血小板の3つの血球からできています。その血球は、骨髄の中で作られていますが、遺伝子の異常が起こると、骨髄の中の血球をつくる細胞がガン化してしまい、異常な白血球細胞だけが増殖してしまいます。それに伴い、赤血球がうまく作れずに貧血になったり、血小板がうまく作れずに、血液が止まりにくくなってしまうようなことが白血病では起きてしまいます。
私たちの検査室では、この遺伝子の異常を調べることで、いくつかある白血病の種類の特定や、治療効果の確認などを行っています。
実際に行っている検査や病気の詳しい説明は、3.遺伝子検査とは、4.実際に行っている遺伝子検査を読んでみてください。
遺伝子検査には大きく分けて次の2種類があります。
・感染症遺伝子検査(細菌、ウィルス)
・ヒト遺伝子検査(遺伝病、造血器腫瘍、固形腫瘍、個人識別)
遺伝子検査を行う場合、ある特定の遺伝子の塩基配列や発現量を調べるのですが、遺伝子自体は非常に小さく、しかもほんの少量しか存在しません。そのため、遺伝子を10~100万倍に増やしてから検査する必要があります。この操作法をPCR法といい遺伝子検査で最も重要な方法です。このような検査をするには、整った設備と高度な技術が必要となります。
1)感染症遺伝子検査とは?
ヒトに感染し、病気を発症する微生物を病原微生物といいます。この病原微生物の種類や量を調べることにより、どのような微生物に感染しているのか、また、さらに詳しく遺伝子を調べることでどのような薬が効くのかが分かります。これらの情報を得ることにより病気の診断や薬の量を決定できるのです。
遺伝子検査を行う1番のメリットは病原微生物の遺伝子を検出する感度が高く、しかも従来の培養検査(数日)よりはるかに早く(数時間)結果が出ることです。つまり、早期発見、早期治療が可能となります。
2)ヒト遺伝子検査とは?
ヒト遺伝子検査はドラマなどでよく目にする親子鑑定や犯人を特定する個人識別などが有名です。このほかにも糖尿病や肥満なども遺伝子が関係しているといわれています。
ここでは、当検査室で実際に行っている造血器腫瘍の検査についてご説明します。
造血器腫瘍とは俗に言う血液の癌のことを指しています。代表的な病気では白血病があります。白血病が発症する原因の1つとして異なる2つの遺伝子の入れ替わり(転座)があります。このようにして新たに作られる異常な遺伝子を再構成遺伝子と言います。つまり、ヒト遺伝子検査でこれらの再構成遺伝子が検出されることにより、白血病の種類や治療方法などの詳細が判るのです。
例:
種類 | 検査項目 | 特徴 |
急性骨髄性 白血病 (AML) |
AML1/MTG8 融合遺伝子 |
FAB分類:M2 予後良好 AML1/MTG8融合遺伝子によって作られる異常なタンパク質が白血病を発症している可能性がある |
PML/RARα 融合遺伝子 |
FAB分類:M3 予後良好 治療法としてレチノイン酸投与という分化誘導療法が確立されている |
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慢性骨髄性 白血病 (CML) |
BCR/ABL 融合遺伝子 |
CMLの約95%で陽性 有効な治療薬イマチニブの発明によって予後が劇的に改善されている |
例のように白血病に特徴的な再構成遺伝子を検出することで、その結果が診断に用いられます。
白血病の中には治療法が確立されている種類もあり、検出された再構成遺伝子によって予後が良好か不良かがわかる場合もあります。
ゆえに白血病に対して用いられるヒト遺伝子検査はとても重要となっています。
このほかにも、当検査室では病気に対して薬剤が効きやすいのか効きにくいのか、治療中の患者様の症状や容態は安定しているのかそうでないのか、など様々な情報を得るためのヒト遺伝子検査を行っています。