メッセージ    MESSAGE

大切な「誰か」の病気を
未然に防ぐ使命
山岸 良匡

筑波大学附属病院茨城県脳卒中・心臓病等総合支援センター 委員
筑波大学 医学医療系 社会健康医学 教授

多くの人の健康を守るため
予防医学の道へ

医師は、国家試験に合格して医師になったら、専門の診療科を決め、病院などで勤務するのが普通ですが、私は予防医学・公衆衛生学を専門に選び、地域と大学を行き来しながら、なかでも「地域の中で脳卒中を防ぐためにどうしたらよいか?」をずっと考えてきました。

もともと、へき地のような医療が十分でない地域に貢献したいという思いがあったので、人々が長く健康で暮らせるようにするにはどうしたらいいかという事に関心がありました。そこで、病気になる前に、医療ができることがあるのではないかと考えるようになりました。

脳卒中は、特に日本人に多い病気ですが、中でも茨城県を含む東日本に多い傾向があります。その予防法を明らかにするために、私たちのグループでは、昭和30年代から秋田や大阪で予防対策を続けてきました。さらに昭和56年(1981年)からは、茨城県協和町(現・筑西市)でも対策を開始し、現在も続けています。

協和町での健診と減塩を中心とする地域ぐるみの活動では、脳卒中や心疾患の新規発生が半減しました。そのときに重要だったのは、個人の努力だけではなく、地域ぐるみで、みんなで活動することでした。茨城県にはそうした「ご近所パワー」のような地域のつながりが強く、それを健康づくりにつなげることが、病気の予防につながります。健康づくりは地域づくりに直結し、それを結びつけるのが予防医学であるといえます。

「健康が守られた誰か」
のことを想像して

自治体や住民が中心となって、さまざまな機関とも協力して、地域ぐるみで予防に取り組むことが重要ですが、地域全体で健康行動を改善したり、健診の受診率を高めたりするのは容易なことではありません。

また「生活習慣への意識が高まった」「塩分摂取量が減った」などという調査結果が得られたとしても、実際に病気になる人が減った、つまり取り組みが脳卒中や心臓病の予防に貢献したと実証するには少なくとも10~20年の歳月が必要です。

治療であれば、患者さんにとっても医療者からも「よくなったのは治療のおかげ」と効果が実感しやすい面がありますが、予防の効果は実感しづらいものです。病気の発生率を減らせたら、病気になっていたかもしれない誰かの健康が守られたことになりますが、それを厳密に実証するには時間をかけた研究が必要です。それでも私たちは「健康が守られた誰か」のことを想像して、やりがいを感じています。

茨城県民のための
情報を提供していきたい

この「筑波大学附属病院茨城県脳卒中・心臓病等総合支援センター」は、患者さんが適切な治療を受けられるようにすることに加え、一般の県民の予防に役立つ情報を発信する役割も担います。

健康に関する情報は、WHOや厚生労働省のホームページにも掲載されていますが、日本人と外国人とで生活習慣は大きく異なり、また国内でも、地域によって様々な個性があります。

たとえば食塩の摂取量は全国平均を上回り、特にかけ醤油が多いのが茨城県の特徴です。また茨城県は野菜や果物の生産が盛んですが、そのわりに消費量は意外と多くない傾向もあります。こうした特徴を踏まえ、茨城県のデータに基づいた情報を発信することが茨城県内の皆さんにとって有用であると考えています。その一環として、筑波大学では茨城県と協働して、県民を対象とした「茨城県健康研究」を進めています。こうした県民に役立つ情報をこのセンターからも発信できればと考えています。

山岸 良匡

筑波大学附属病院茨城県脳卒中・心臓病等総合支援センター 委員
筑波大学 医学医療系 社会健康医学 教授

出身
筑波大学医学専門学群卒業

研究分野
公衆衛生学、特に生活習慣病の予防と疫学

社会医学系専門医・指導医
日本公衆衛生学会認定専門家
日本疫学会認定上級疫学専門家

筑波大学 筑波大学附属病院
〒305-8576
茨城県つくば市天久保2丁目1番地1
Tel. 029-853-3900(代表)