ご挨拶

病院長からのご挨拶

筑波大学の医学教育は、昭和49年に最初の学生の一人として私が入学した当初から、教育のゴールを「総合的な診療能力を有する質の高い臨床医」としてまいりました。こうしたゴールを掲げて歩んできた本学にとって、今回採択された文部科学省の未来医療研究人材養成拠点形成事業で目指す「リサーチマインドを持った総合診療医の養成」は、まさに長年取り組んできた教育の目標に合致するテーマでした。開学40周年を迎えた節目の年に、この拠点形成事業を開始できたことは、大きな喜びであるとともに、これまでよりまた一回り大きな役割を期待される責任も感じています。

高齢化が医療界にもたらす影響で最大のものは、疾病構造の変化だと言われています。超高齢社会が到来した現代の日本では、いくつもの慢性疾患を持った高齢者が患者の中心となってきました。様々な障害や疾病の影響を受けるようになっていく患者さんに対して、適切な医療を提供し続けるために、我々医師養成を担う機関には、人々が住みなれた地域で安心して生活するために、多様な健康問題に幅広く対応できる医師、すなわち優れた総合診療医の養成が求められています。

筑波大学が位置する茨城県は、本院が開院する以前と比べれば格段に医師数が増加してきたとはいえ、全国での比較では医師も医療専門職のマンパワーも未だ十分とは言えません。この地域で超高齢社会を支える「地域包括ケアシステム」を各市町村で実現できるのか、新たな大きな課題が現場に圧し掛かっています。そうした社会状況から、地域医療のリーダーとなれる総合診療医への期待は、とりわけ大きいものがあります。

幸いなことに、本学の40年間の医学教育への取り組みの結果、全国に先駆けて設置した水戸地域医療教育センター(水戸協同病院)等を中心とした豊かな教育フィールドを持つ、全国最大規模と言ってもよい総合診療医の指導体制を備えるに至りました。探究心の旺盛な優れた総合診療医等を養成することを目的とする本事業により、次世代の地域医療のリーダーとなれる優れた総合診療医の養成をさらに充実したものにできると確信しています。

地域で活躍する医療人の生涯教育にもつながる本取組を進めることには、大きな意義を感じています。この取り組みが、次世代の医療者や地域の皆さんのための大いなるプレゼントとなるよう、本事業の推進を強力にバックアップしてまいります。

筑波大学附属病院長 松村 明

事業責任者からのご挨拶

急速な高齢化を迎える我が国の医療は、「病院で治す医療」から「地域で支える医療」へと大きく変わろうとしています。その実現のために、多様な健康問題に柔軟に対応でき、関係する各職種と緊密に連携して包括的なケアを提供できる総合診療医の果たすべき役割がきわめて重要になります。

このような流れを受けて、文部科学省の平成25年度未来医療研究人材養成拠点形成事業として、「リサーチマインドを持った総合診療医の養成」をテーマに、新規性・独創性の高い特色ある取組にチャレンジする大学の事業を選定し支援する事業が導入されました。筑波大学は、応募59大学の中から優れた取組として選定された15大学の一つとして、5年間(予定)にわたる事業を展開していくことになりました。

本学は、早くから総合診療医の養成に取り組んでおり、これまで多くの専門医を輩出してきましたが、本事業では「次世代の地域医療を担うリーダーの養成」をテーマとして掲げ、研修体制をさらに強化・発展させていきます。

我々が考える「地域医療を担うリーダー」としての総合診療医は、地域住民の抱える様々な健康問題に幅広く対応できる専門性の高い臨床能力および研究能力である「テクニカルスキル」だけではなく、リーダーシップ、コミュニケーション能力、そして人材育成力など、周囲と協調しながら組織を作り上げてそれを発展させていく能力としての「ノンテクニカルスキル」も兼ね備えた人材です。これまでの医師養成は、テクニカルスキルの修得のみに重点が置かれ、ノンテクニカルスキルに関する体系的な教育はほとんど行われていませんでした。今回の事業では、この両者をバランスよく取り入れた質の高い研修プログラムを導入することが最大の特徴です。

本事業の運営は、附属病院総合診療グループと総合臨床教育センターを中心に、茨城県や医師会、地域医療機関との緊密な連携の下で、まさに大学と地域が一体となって行うことになります。本事業の導入により、大学-地域循環型のキャリアパスを確立して、将来の超高齢社会における地域包括ケアをリードできる、優れた総合診療医を数多く養成するとともに、そのノウハウを確立して全国に広く情報発信することを目指したいと考えております。

皆さまのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

筑波大学附属病院長 附属病院総合診療グループ長 総合臨床教育センター部長 前野 哲博