本事業が目指すもの 目指す医師像

丸山泉

筑波の養成プログラムには既存の価値観を超えた「未来的思考」がある それが地域医療を変えるはず

丸山泉

日本プライマリ・ケア連合学会
理事長

1975年久留米大学医学部卒業。久留米大学第二内科、医療法人社団豊泉会理事長
社会福祉法人弥生の里福祉会理事長、小郡三井医師会会長、NPO法人あすてらす
ヘルスプロモーション理事長等を経て、2012年より現職。

前野哲博

筑波大学附属病院総合診療科教授
日本プライマリ・ケア連合学会
副理事長

国のモデル事業に採択された筑波は成果を全国に発信する責務が得るだからこそ次世代のリーダーを確実に要請できるプログラムを考えた

前野哲博

1991年筑波大学卒、川崎医科大学総合診療部、筑波メディカルセンター病院
総合診療科を経て、2000年より筑波大学附属病院勤務。日本プライマリ・ケア
連合学会家庭医療専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医

大学における総合診療医養成のモデルを作り全国に発信したい

約1年後に総合診療専門医の制度が新しく導入されます。それを見すえ、各大学とも総合診療医・家庭医養成の取組を本格化させているかと思いますが、我々は既に早い時期からこのテーマに取り組んできました。平成25年度からは文部科学省GP「次世代の地域医療を担う リーダーの養成」プログラムに採択され、現在は5年の事業期間のちょうど折り返し点にあたる2年半が経過したところです。丸山先生には外部評価委員としてご協力いただいています。

今回、筑波大学が文部科学省に採択されたGPのタイトルは「未来医療研究人材養成拠点形成事業」ですよね。総合診療領域にかかわる方々は、総合診療医養成が「未来」と名のつく事業に採択された意味を今一度考えてもらいたいのです。大学は未来の医師を養成する医育機関。その根本的使命は、現在既知のニーズ、例えば2025年問題の前後20年間をターゲットにするのではなく、もっと先の「未来」に焦点をあてた教育を考えなければなりません。しかし、多くの大学が既存の価値観やスキームから脱却できません。旧態依然の目で将来を見ようとすれば、未来性は消失します。筑波大学のプログラムには、新しいスキーム構築に必要不可欠な、想像力と創造力に満ちた「未来的思考」がありました。だからこそ採択され、全国から注視されています。間違いなく全国の総合診療養成のトップランナーのひとつですね。

GPでは、社会的に必要性の高いテーマについて先進的な取組を展開しようとする大学を、文部科学省が期限を決めて支援します。その代わりに、採択された大学は確実に成果を出し、それを全国に向けて発信することが求められます。我々はGPに選ばれた意味を常に自覚し、その期待に応える義務があると思っています。筑波大学・茨城県内だけに総合診療医を養成するのなら、自分たちだけでやればいい。でも、GPとして国の予算的支援を受けるからには、先進的な「総合診療医養成」モデルを構築し、その教育パッケージを全国へ届けることが必要だと強く思っているんです。そのために、私たちは「次世代の地域医療を担うリーダー」を養成したい。そうして「良質な総合診療医養成プログラムを構築したい」という情熱をもつ全国の地域に拡がっていけばいいなと思っています。

素晴らしい! 僕の夢は、全国約80大学の医学部全てに総合診療の教育拠点ができることです。しかしまだそれを担える人材すら育っていない段階です。トップグループにいる筑波大学ではまず、総合診療医教育ができ、総合診療領域の教室を担当できる人材を育成することが大事です。筑波大学では今まさにそれに取り組もうとしていますね。

地域医療のリーダーに求められるノンテクニカルスキルを体系的にトレーニング

「リーダーの養成」という意味は、いままでの医学教育に欠けている視点ではないかと思っています。産業界では、個人またはリーダーの能力開発に体系的・継続的に投資しますが、医療界では全くといっていいほど無関心でしたね。

臓器別の治療や知識の修得に偏るあまり、対人能力の養成も、人材育成であるはずの医学教育の中からスッポリ欠落し、経験知に委ねられています。未来的な医師の養成を考えれば必要なことですね。特に総合診療領域では、人材がリソースの大きな部分を占めるので、「対人間力」養成は必須でしょう。

おっしゃる通りです。だからこそ、筑波大学の事業では総合診療医のコミュニケーション能力やパフォーマンス向上能力、連携能力、課題解決能力といった「ノンテクニカルスキル」養成に力を入れているんです。

なるほど。総合診療医としては、患者さんのみならずご家族・地域コミュニティなど、よりマクロな対象との調整スキルが求められるでしょうね。ずっと昔は、医療臨床の現場にも「コミュニティの健康を意識する」という視点がありましたが、治療行為にのみ対価が発生するような医療報酬制度等もあり、それは徐々に失われました。しかし、当然ですが私たちはコミュニティの一員として暮らす宿命を負っています。総合診療医は個人を治療するのはもちろん、さらに地域のリーダーとして「コミュニティ」の健康を支える教育を行わなければならないのです。地域包括ケアで、その視点が再評価されることは間違いありません。

そうですね。これだけ重要なスキルなのに、なぜ医療界であまり注目されてこなかったのか。それは、「自然と身につける能力」と考えられていたからだと思います。もちろん経験は大切ですが、スキルである以上理論的なトレーニング法があり、その理論を知って経験を積むのと知らずに経験するのでは、アウトプットは全く異なります。我々は、GPの大きなプロダクトとして、総合診療医向けに特化したリーダー養成教育プログラムを開発したいと思っています。

ここでいうリーダースキルとは「エリート」「上位者」といった不遜な意味とは真逆で、体に関する知識と実践で地域の人を笑顔にし、平和と幸福を構築する役割のことでしょう。総合診療に限らず医師は、ともすれば謙虚な「医療のリーダー」たるスキルを全く修得しないままで経過します。真のプロフェッショナルたるために、そのマインドと能力は卒前修得させたいくらいです。

そうですよね。今回は総合診療医養成に特化したリーダー養成プログラムを作るつもりですが、将来的にはこういうノンテクニカルスキルの教育プログラムは医療界全体に波及していくかもしれません。