目指す医師像 コンピテンシー

アカデミアである大学に総合診療の教育・研究拠点を

大学が総合診療医養成に取り組む必要があるのかと言う方もいます。しかし、若いレジデントが多様な場で幅広いキャリアを積む時は、確固たる母体に帰属しつつ各地へ研修に出る、という体制でないと、職業的にも精神的にも渡り鳥のように不安定になりかねません。

総合診療医が各地で活躍するときも、彼らのアイデンティティのよりどころとして大学に拠点がなくてはなりませんね。さらに大切なことは、大学こそが、総合診療の領域を発展させ、臨床だけでなく研究や学問として押し上げ、総合診療医の確固たる基盤を構築することができるということです。単にニーズがあるから総合診療医を養成したというだけでは、学問的基盤は発展しません。最高学府である「大学(アカデミア)」が強力に支えないと、総合診療医のアイデンティティも、総合診療医の養成システム自体もつぶれてしまう。総合診療領域について深い理解のある大学人が後方支援をする必要があります。

その通りだと思います。大学人を育てることも、我々の重要な任務。高いレベルの「教育できる能力」「研究できる能力」の教育が必要だと思っています。その基盤がないと、大学では認めてもらえません。例えば研究なら、「やったことがある」というレベルではなく、独立して計画し論文発表まで可能な人材が必要です。大学でないと、これらの修練はまずできません。これこそが大学がアカデミアとして総合診療医を養成する意義だと考えています。

しかし、プライマリケアの研究は難しく、量産できませんね。僕が学位をとったネズミを使った実験研究なんかは量産できるんだけれども(ネズミには申し訳ない……)。プライマリケアでのリサーチを論文にするまでには、本人と指導側、両方の力量が問われますね。

学位を持つ総合診療医も、学位を出せる総合診療科も、現状では全国に非常に少ない。研究に興味をもってくれる人はいても、学会発表で満足してしまったり、計画段階で困難さに気づいて立ちすくみ、先に進めない人が多いのです。

そうでしょう。でも、研究ができなければ大学人は育成できません。早急に大学人たる総合診療医を育成し、いい循環を作りたいものです。

採択GP名には「リサーチマインドを持った」とある。もとより研究者育成が求められるGPなのです。その点では、我々総合診療科の指導医中、学位保持者が12名います。この恵まれた環境を活かしてしっかり指導したいですね。

筑波が作りたいのは全国で活きる「養成モデル」と「人材」

大学を拠点に、全国に筑波のモデルが広まれば、総合診療の未来はきっと変わるでしょう。全国各地で地域医療のニーズはもちろん違いますが、地域医療にあるべき総合診療医像やコンピテンシーはどこでも同じ。筑波の養成モデルは他地域でも応用が効くはずです。それに、この筑波のプログラムで養成され、「自ら創造してきた」成功体験と経験値をもつ人は、その方法論を他のどの地域でも活かしうる思考力と応用力を既に培っているでしょう。地域や状況の違いというのは、根本的な力が備わっていれば、あまり問題ではないのでは。

そうですね。我々は茨城というフィールドを使って総合診療医としての問題解決能力を培っています。もとより茨城や筑波の環境でしか解決できない人を育てるつもりはないんです。

茨城で行われているこのプログラムは素材のひとつ。ここで効果が実証されたカリキュラムと、しっかりと力をつけたリーダーたちは、他地域でもしっかりと人を育てるでしょう。全国的には指導人材さえ少ない現状ですが、筑波大学の皆さんでなんとか総合診療領域の荒涼とした原野を切り拓いていただきたい。そして未来に向けて「筑波モデル」の種を各地に植え、育てていただくことを願っています。

はい!本日はありがとうございました。